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#author("2018-12-02T08:13:24+00:00","default:hiroshi","hiroshi")
''ラボ教員らが中心となって策定した応用物理学会の将来ビジョンマップ(クラスタ13)の説明文を再掲します。'' (In Japanese only now)
出典:年吉 洋、「[[マイクロ・ナノメカトロニクス(アカデミック・ロードマップと発展史マップ)>http://toshi.iis.u-tokyo.ac.jp/archives/?plugin=attach&pcmd=open&file=MEMS_JSAP_ARM2010.ppt&refer=%B1%FE%CD%D1%CA%AA%CD%FD%B3%D8%B2%F1%A1%A6%A5%A2%A5%AB%A5%C7%A5%DF%A5%C3%A5%AF%A5%ED%A1%BC%A5%C9%A5%DE%A5%C3%A5%D72009]]」 第46回応用物理学会特別企画シンポジウム・応用物理学の将来ビジョン、東海大学湘南キャンパス、TB会場、2010年3月18日.
*13 マイクロ・ナノメカトロニクス技術 将来ビジョンマップ説明資料 [#jf0e377e]
マイクロ・ナノメカトロニクス技術クラスター~
応用物理学会・集積化MEMS技術委員会(編)
マイクロ・ナノメカトロニクス技術分野では、平成20年度にMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)とマイクロセンサ、物理センサ・回路集積化システム、化学センサ・化学情報システム、MEMSとLSIの集積化の進展、超小型電源に分類し、2040年までのロードマップ・サブマップを作成している。今回のロードマップ改訂においては、応用物理学会・集積化MEMS技術委員会メンバーが中心となって、縦軸をMEMS要素の集積数で定量化し、横軸を時間とした統合版のロードマップを作成した。
**13-1.MEMSとマイクロセンサ [#f43875a5]
MEMS技術等に立脚したマイクロナノマシンやセンサには、「より小さく、より多く、より賢く」の三つの特長がある。MEMS技術は微小な機械構造だけでなく、超小型で高感度のセンサ、電子回路など様々の機能を持つ要素を一体集積したチップを実現する技術である。これまでのIT技術(Information Technology)は、人間がインプットした情報を機械が処理して伝送し、人間に結果を提示する高度なシステムを作り上げてきた。いわば人間の脳や会話の能力を拡張した訳である。しかし決定的に不足しているのは、目や鼻に当たる感覚器官(センサ機能)と、手や足に当たる運動器官(アクチュエーション機能)に対応する機能である。MEMSセンサは視覚や聴覚だけでなく、加速度のような運動感覚、臭覚や味覚(化学組成)、触覚などを拡張して、人間の手に頼らず機械が外界の情報を直接把握することを可能にする。また可動構造は、多数の微小ミラーを動かして画像を投影したり、マイクロポンプや弁を動かして芳しい匂いを放出したり、自動的に様々の作用を及ぼして人間の知覚を支援できる。
人間でも、その場の状況を的確に感じ取り、いち早く適切な行動をこまめにする人は、周りの人たちを幸せにする「気の利く人」だと賞賛される。今のITは入力された情報を処理して、人に指令を出して働かせる仕組みで、もしこのような人ばかりが周りにいたらあまり幸せとは感じないだろう。MEMS技術とは、機械が人間を煩わせることなく自ら情報を取得し、それにあわせて動作することを可能にするものである。近頃よくある機能過多で使いにくい機械を「気の利く機械」に変え、技術進歩に乗り遅れた人でも自然に使いこなせる仕組みを提供する基盤技術としての発展が期待される。
**13-2.実用化の動向と展望 [#q32bf2b3]
現在のMEMS研究開発分野においては、小型で省エネルギーの高性能部品を実現するため、通信、自動車等の既存の産業分野における部品の小型化・機能向上・省エネルギーのための代替部品としてMEMSの製品化が進んでいる。今後は、ナノテク技術を取り込み、化学やバイオ技術を融合することで、医療・健康管理・環境監視分野での超小型新規部品やシステムとしてのニーズが高まると見込まれる。また、無線通信技術、特に高度なRFタグ(Radio Frequency Tag)技術と結びつくことで、無線センサネットワークの安価で高性能の実現に資すると期待される。
自動車のエアバッグ用加速度センサや燃焼制御用圧力センサ以外に、多様なセンサ(各種姿勢制御用センサ、赤外線センサアレー、障害物探知用レーザーレーダ、運転者の酒酔いや居眠り検知センサ等)が採用され、より一層の快適性、安全性の向上に資する。ゲーム、携帯情報機器、ロボット等のヒューマンインタフェースにも、加速度センサや傾斜センサ、ジャイロスコープ、磁気コンパス、指紋IDセンサなどが多用される。ロボットにおいては、姿勢制御や自立走行・歩行のための環境認識センサ(ロボットビジョン)、多様な環境における安全の確保などにも、多くのマイクロセンサの実装が必須である。
健康管理用には、携帯可能な安価で小型の人体の体液分析チップ、人体のにおいセンサ等の検査キットが開発され、在宅での診断や予防医療が可能となる。医用では、体内の各所の撮影や「その場」診断を行う光ファイバ型内視鏡や、嚥下型のカプセル内視鏡ができる。さらに将来は、体内埋め込み型微小機器により、体内パラメータの常時測定やその情報に応じた薬剤等の自動投入(ドラッグデリバリ)が可能となる。また、現在では携帯電話カメラ用の超小型焦点レンズとして実用化されている水/油の界面制御型マイクロレンズは、将来的には焦点可変型の老眼鏡やコンタクトレンズとしての発展が期待される。化学センサ分野では、単に化学情報を計測するだけでなく、それを伝送し表示する「においディスプレィ」や「味ディスプレィ」が作られるようになるだろう。
五感のいずれかが不自由な方や、身体障害や麻痺のある方などに対し、MEMS型の神経プローブにより神経と直接インタフェースをとり、感覚情報の提供、運動情報の取得と筋肉や義手・義足等への伝達などを行うバリアフリー・メカトロニクスの要素技術としての発展が期待される。この分野では、脳から直接神経電位を計測して外部機器を制御する脳-マシンインタフェースとしてのMEMS神経プローブの研究開発が進む。また、一部の先行研究では、電子カメラで取り込んだビットマップ映像を、視覚を司る脳の部位に電気信号として与えることにより、全盲状態の人に電子視覚を与える技術の開発が進んでいる。この技術の究極の姿は人とエレクトロニクスのシームレスな結合であり、映画「マトリックス」が描く未来技術を良い意味で実現する基盤となろう。
インクジェットプリンタのヘッドは、MEMS技術がシリコンマイクロマシニングと呼称されていた1970年代から研究開発が進められており、いまでは写真印刷に広く用いられている。近年ではインクジェットプリンタによる生きた細胞の吐出・印刷が可能となり、印刷するように生体組織・臓器を形成するバイオプリンティング技術として研究が進められている。現状では印刷した細胞が増殖し、組織を形成する過程に課題があるが、将来的にはiPS細胞技術との融合により、印刷で各種の組織・臓器を生産する技術として期待される。
MEMS技術を用いることにより、光通信網の通信速度の向上とともに災害時の信頼性が増すなど、高度情報通信社会の一層の高速化、信頼性向上が期待される。さらに、光計測の分解能や機能の向上ができる。光技術の応用により、分光分析や集積化光センサなど、化学検出に有効である。また光を3次元的に走査して空間情報を得るシステムも重要である。
モバイル機器に、RF-MEMS型のスイッチや共振器、フィルタ、アンテナ等の多くの小型・集積化部品が組み込まれ、低消費電力、低コストで複数の周波数を適切に選択した高度な通信サービスが利用可能になれば、無線通信においても有線LAN(Local Area Network)並みの情報伝達能力が実現される。たとえば、マイクロセンサ付きの携帯電話やセンサを集積化したRFタグなどで、環境情報や防災・防犯情報等を自動取得する無線センサネットワークが形成できるだろう。このような自立マイクロチップへの電力供給は、環境のエネルギーを回収して用いること(エネルギーハーベスト)が必要であり、太陽電池だけでなく、振動、微小な温度差、電磁界などから発電する超小型電源も、MEMS技術で実現することが期待される。なお、燃料電池に関してもMEMS技術は、電池のセル自体の性能向上に微細加工や流路が貢献できるほか、電池周りのポンプ、バルブ、燃料改質器など補機の省エネルギー、小型化への貢献が期待できる。
集積回路とMEMSを一体化する技術により、加速度計や可動マイクロミラーアレイによるディスプレイデバイスなどが商品化されている。今後は集積回路技術をさらに微小化し、高速で大量の情報処理を可能とする方向に加え、MEMSのセンサ・アクチュエータ、無線通信回路、超小型電源などさまざまな異なった機能を持つ要素を、SoC(System on Chip)的にチップ上に集積化する方向も追究する必要がある。従来のMEMS分野では、センサ・アクチュエータ部分とそれを制御するエレクトロニクスを分離した、2チップによるシステム設計が大半を占めていた。これは、設計から製作までの時間短縮と、頻繁な設計変更のコスト回避が理由であった。ただし、将来MEMSを必要とするアプリケーション内で、エレクトロニクスとの配線数が膨らむか、あるいは、高速処理化による信号遅延が問題になれば、MEMSと集積回路のモノリシック統合は製造基盤技術として必須である。この分野では、たとえばLSI上に電源管理用のMEMSパワースイッチを集積化して、不使用時の待機電力をリークゼロにするなど、グリーンテクノロジーとの整合性の良い新たなアプリケーションも見えてくるだろう。
#ref(http://toshi.iis.u-tokyo.ac.jp/toshilab/?plugin=attach&refer=ja/What%20is%20MEMS%3F%2FIntroduction&openfile=visionmap.png,,50%)
**13-3.ナノと大面積化を目指す展開(サブマップに関する説明) [#y8cdfec3]
2040年のMEMS分野では、トップダウンプロセスである微細加工と、ボトムアッププロセスであるナノ・バイオプロセスとを融合した製造技術の確立により応用範囲を急速に広げ、我が国の社会的課題である「環境・エネルギー」、「健康・医療・福祉」、「快適・安心・安全」分野の諸課題を解決するキーデバイスとして広く浸透するであろう。
ナノ構造の機能を工学的に生かす場合、材料としてナノ構造の集合体を従来の加工技術で取り扱うことは難しくない。この面での応用は、現在急速に実用化が進んでいる。一方、ナノ構造を構成要素として、それを設計通りに組み合わせて工学システムを組み上げることには、多くの技術的困難がある。例えば、トランジスタ機能をもつ分子を作ったという報告は散見されるようになった。しかしこの発明に基づき、メモリーやプロセッサーのような集積回路を、トランジスタ分子のみを用いたボトムアップ法で作るまでには、従来の半導体製造技術から格段に飛躍した技術進歩が必要である。
トップダウン法では、十ナノメートル程度の構造までは再現性良く製作できる見込みが得られている。一方、分子と同じ数ナノメートル領域に至るには、これまた多くの技術的困難がある。一方、トップダウン法では、数百万にも達する要素を複雑に組み合わせたシステムをきちんと設計して、作り上げることは得意である。
すなわち、電子回路や機械の微細化を追求する極限として、数ナノメートルの要素を多数・複雑に組み合わせたシステムを作ろうとする場合、トップダウン法のみでも、ボトムアップ法のみでも実現が難しいのが現状である。そこで、トップダウン法であらかじめ構築しておいた大局的システム構造の中に、ボトムアップ法により製作した数ナノメートルの要素を組み込むことで、この問題を解決することが考えられる。この融合的手法を用いることで各構成要素の微細化が可能となる一方、システム全体の構造については我々の望むとおりの形を自由に作り込むことができる。
上述のボトムアップ・トップダウン的アプローチは、デバイス・システムの設計寸法をインデックスとした技術の棲み分けと融合を議論したものである。このようにMEMSの設計寸法をナノメートル化する一方で、マイクロ・ナノメカトロニクスの集合体を10センチメートル以上の大面積に渡って集積化し、従来にない新しい機能を創出する大面積MEMSに関する設計・製造技術も進展するだろう。現在では、ロール・ツー・ロール印刷技術によるグラビア印刷やフレキソ印刷、ラミネート加工を応用して、プラスチックフィルム上にMEMS機能を実現する研究が急速に進展している。この技術により、たとえば、画像表示機能(ディスプレィ)やマイクロフォン、オーディオ・スピーカーなどの機械構造を集積化する見通しが立っている。この技術は、将来は印刷エレクトロニクス分野との融合により、MEMSと制御回路を印刷によって製作した新たなエレクトロニクス基盤製造技術へと進化することが期待できる。この製造技術に基づき、MEMSのアクチュエーション機能、センサ機能、エレクトロンニクスの集積回路、バイオ・化学のマイクロ化学反応機能、光学機能など、複数の異種機能を一枚のシートに盛り込んだEoF(Everything on Film)型の集積化システムは、エレクトロニクスの新しい時代を開拓する興味深い分野となるだろう。
#ref(http://toshi.iis.u-tokyo.ac.jp/toshilab/?plugin=attach&refer=ja/What%20is%20MEMS%3F%2FIntroduction&openfile=technologymap.png,,50%)