センサとアクチュエータはともにエネルギー変換機構(トランスデューサ)のひとつです。とくに前者は物理・化学的入力を電気信号に変換し、後者は電気的な入力により機械的な力・変位を出力するデバイス(装置)のことを指しています。近年の半導体微細加工技術の発展にともなって、トランスデューサの微細化による高感度・高速化と、周辺電子回路との集積化による高性能化が進んでいます。ここでは、両者を検出・駆動原理によって分類して、近年のエレクトロニクスに活用されているセンサ・アクチュエータを解説しましょう。
下の表に、各物理領域におけるセンサの検出原理とその素子・装置応用一覧を示します(テキスト形式の表は、このページの一番下にあります)。物理・化学分野で知られている古典的な効果・法則は、それに関わる物理・化学量の検出原理として利用できますし、その種類は極めて多岐にわたります。なかでも、力学的な歪を電気信号に変換するピエゾ抵抗効果と、機械的な変位を検出する静電容量センサは、圧力計や加速度計、ジャイロスコープ、マイクロフォン等のMEMSデバイスの基本原理として広く使われています。
我が国のセンサの開発史上では、豊田理化学研究所の五十嵐伊勢美氏による半導体歪ゲージ効果(ピエゾ抵抗効果)の業績が顕著です。この効果は、ゲルマニウムやシリコン等の半導体のバンド構造が機械的な応力によって変化し、その導電率が変化する現象に基づいています。また、旭化成の柴崎一郎氏らは半導体中のキャリアの移動が磁界によって力を受けるホール効果を応用して、InSb薄膜とフェライトを組み合わせた高感度の磁場センサを1975年に量産化しました。このデバイスは、モーターのブラシレス化や非接触電流計に利用されています。
1980年以降には半導体微細加工技術を応用して、機械的に動く微細な構造を設計寸法1μm程度で集積化するシリコンマイクロマシニング技術や、マイクロマシンと集積回路を融合するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術が登場しました。これらの技術により、シリコン製の微小なバネ・マス振動構造を半導体集積回路と同様のバッチプロセスで製造することが可能になりました。これらのセンサは、現在では信号検出回路を集積化したMEMS型の加速度センサやジャイロスコープとして、TVゲームのコントローラやスマートフォンに搭載されています。また近年では、液中の電位を計測するISFET(Ion Sensitive Field Effect Transistor)を利用したDNA検出用のマイクロチップも研究開発されており、バイオ工学分野への展開が進展しています。
単に入力を電気信号に変換するだけでなく、環境振動や光、電磁波、未利用の排熱等からエネルギーを回収して超低消費電力エレクトロニクスの電源として用いるエナジーハーベスタ素子の研究開発も進んでいます。
下の図に、各種エネルギーを力学エネルギー(仕事)に変換するアクチュエータの原理を示します。また、単位面積あたりの発生力の概算を表に記載しておきます。
コイルと永久磁石間の電磁力はもっとも古典的なアクチュエータ機構であり、比較的大きな力(トルク)を発生できるため、電磁ベルや接点リレー(スイッチ)オーディオ用スピーカー等の駆動機構として使用されています。また、マイクロアクチュエータ用途としても、電磁駆動はレーザー測長・画像ディスプレイ用の空間光変調器(光スキャナ)の駆動機構等に応用されています。
印加電圧のクーロン引力を利用した静電駆動アクチュエータは駆動機構が簡素であることから、半導体プロセスを用いて製作した世界初のマイクロモーターの駆動に用いられました。その発生力は微小なのですが、集積回路駆動機構との整合性が高いことから、画像プロジェクタ用のマイクロミラーの角度制御や、ジャイロスコープ、水晶振動子に代わるシリコン共振子の励振機構等に広く使われています。
さらに単位面積あたりの発生力の大きな圧電材料としてPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)やZnO(酸化亜鉛)等が知られており、これらはカメラのレンズを駆動するオートフォーカス用の超音波モーターや、インクジェットプリンタのインクを吐出する機構、磁気ディスクヘッドの位置決め機構などに使用されています。また、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)などのポリマー延伸素材にも圧電性があり、フレキシブルアクチュエータとして人工筋肉等への応用が検討されています。さらには、イオン交換樹脂等の高分子ポリマーに電場を与えると、内部イオン移動によって体積膨張することが知られおり、これを駆動機構にした導電性ポリマー型のアクチュエータも開発されています。
分野 | 原理(効果) | 一次応用(素子) | 二次応用(装置) |
力学 | ピエゾ抵抗 | 歪ゲージ | 歪センサ、スイッチ |
圧電効果 | 歪センサ | ダイヤフラムゲージ、圧力計 | |
慣性力 | 加速度センサ・振動センサ | 傾斜計、地震計 | |
角運動量保存則・コリオリ力 | ジャイロスコープ | ||
熱膨張 | バイメタル構造 | 温度計、サーモスタット、湿度計 | |
原子間力 | 原子間力顕微鏡 | 各種プローブ顕微鏡 | |
超音波の反射 | 距離計、近接センサ | 超音波イメージャ、異物センサ | |
ドップラー効果 | 速度計 | レーザー変位計 | |
圧力(静水圧、音波) | 圧力計、気圧計、高度計、マイクロフォン | ||
電気 | クーロン力 | 静電容量センサ | 各種物理センサ(加速度計、ジャイロ、触覚センサ、指紋センサ等) |
抵抗分圧 | ポテンショメータ・位置センサ | ||
静電誘導 | 電荷センサ | ||
電気光学効果(ポッケルス効果、カー効果) | 電場センサ | ||
ファラデー効果 | 磁場センサ | ||
磁気抵抗効果 | 磁場センサ | HDD (hard disk drive) | |
ローレンツ力 | 電流・磁場センサ | タコメータ、速度計 | |
ホール効果(半導体中のローレンツ力) | 磁場センサ | 地磁気コンパス、電力計 | |
誘導起電力 | 磁場センサ | ||
電磁誘導 | 磁場・電力センサ | 電磁流量計、ロゴスキーコイル | |
ジョセフソン効果 | 磁場センサ | 超伝導量子干渉計 (SQUID) | |
核磁気共鳴 | MRI (magnetic resonance imaging) | ||
光 | 光のON/OFF | 光エンコーダ | 距離計、光マウス |
光の回折、屈折 | 分光計 | ||
光導電性(内部光電効果) | 照度計、赤外線センサ | ||
光起電力(内部光電効果) | PN接合フォトダイオード | 撮像素子、X線撮像 | |
外部光電効果 | 光電子増倍管(フォトマルチプライヤー) | ||
焦電効果 | 赤外線センサ | 人感センサ | |
スネルの法則 | 屈折率計測 | 糖度計 | |
干渉 | 波長計則、距離計測 | レーザー測長、光断層計則 | |
サニャック効果 | ジャイロスコープ | ||
セシウム原子の共鳴周波数 | 原子時計 | 標準時刻、高度計、GPS | |
熱 | 電気抵抗の温度依存性 | サーミスタ、温度計 | カロリメトリー |
ゼーベック効果 | 熱電対 | サーモパイル、放射温度計、光高温計 | |
PN接合 | 温度計 | ||
気体の熱伝導 | ピラニ真空計 | ||
気体のイオン化 | 電離真空計 | ||
物質・化学 | 機械的共振周波数 | 振動質量計(慣性質量計) | マイクロバランス、水晶振動子膜厚計 |
物質の化学反応 | 放射線量計(フィルムバッジ)、カラー写真フィルム | ||
物質の拡散係数 | 液クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー | ||
イオン化傾向差、仕事関数差 | 電位計測 | 標準電極 | |
酸化還元反応 | 物質センサ | ISFET、pHセンサ、酸素・CO2センサ等 | |
抗原-抗体反応 | 生化学物質センサ | ||
バイオ・生化学 | 拡散係数の分子量依存性 | 電気泳動 | DNA検出、タンパク質分離 |
DNA増幅(PCR) | 生化学物質センサ | DNA検出、ウイルス検出 | |
細胞イオンチャンネルの起電力 | 細胞電位センサ、神経プローブ | ||
DNA塩基配列・蛍光反応 | 特定物質の検出(蛍光、電流) | DNAマイクロアレイ |